夏と言えば、夏フェスが思い出されるが、遠方に出向かずとも楽しめる音楽ライブの配信は忙しいときにはありがたいものだ。今年も開催される「iTunes festival London 2011」では、イギリスのロンドンにあるライブハウス「ラウンドハウス」を舞台に、7月1日〜31日まで62組のアーティストが連続ライブを行う予定になっている。公式アプリで、配信映像が観られるというではないか。
早速、公式アプリをダウンロードし、豪華アーティストたちのライブを楽しもうと考えた訳だが、どの日もどの日も豪華できりがない。筆者の性格を考えると、「全てを観ようと気負った結果、ほぼ全てを観逃してしまった」という間抜けなことになりかねない。こういうときはやはり、特に気になるアーティストだけに絞るほうが結果として多くを観ることができる。そこで、ピンポイントで押さえていくことにした。
マニック・ストリート・プリーチャーズ、リンキン・パーク、アークティック・モンキーズ、グラスべガス、ザ¨・スクリプト、コールドプレイ、カサビアンが観られれば、とりあえずは満足。余裕があれば、ビーディ・アイ、ホワイト・ライズ、ジミー・イート・ワールド、モグワイ辺りを観ようかと、ひとまずは目星を付けてみた。ここまでは6月中旬頃の話である——。
明けて7月、この「iTunes festival London 2011」のことをすっかり失念していることを思い出した……。アーカイブで観られるとはいえ、リアルタイムで観るのがライブの醍醐味。リアルタイムで観てこそのライブのはず。「遠方にあっても、ライブが観られる」という甘えた筆者が完全に間違っていた。
こうなった以上、今からでも間に合うアーティストに全力投球するのみ。幸い、7月12日の「ザ・スクリプト」は観られることが判明した。昨年、発売された彼らのアルバム『サイエンス&フェイス』も期待を裏切らない出来映えだったこともあり、これは楽しみだ。
アイルランド出身のザ・スクリプトは、2008年発売の『ザ・スクリプト』でデビューを飾った3ピースのバンドである。美しいメロディと優れた音楽性が高い評価を得て、UKや母国アイルランドのアルバムチャートで1位に輝いている。
UKで1位を獲得した時、彼らは日本でプロモーションライブを行っていた。時は2008年8月26日、場所は東京の赤坂BLITZ。筆者もその場に居合わせる幸運に恵まれた。アルバムからの2曲目「ビフォア・ザ・ワースト」から始まったライブは実に疾走感溢れるもので、新人バンドならではの勢いで最後まで突き進んでいった。
「誰にでも英雄になれる瞬間があると思うけど、僕らにとってそれは今かもしれない」と初々しいことを言いながら、アンコールではUK1位獲得を祝して、デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」を気持ち良さそうに歌ってくれたことが今も思い出される。
第2作目の『サイエンス&フェイス』がまたもやUKやアイルランドでアルバムチャート1位を達成した事実は、彼らが一定のファン層を獲得し始めたことを意味しているのだろう。だが一方で気になる点もある。『サイエンス&フェイス』は、ザ・スクリプトの高い音楽性が反映された佳作だが、よくも悪くもデビュー作と変わりがないのだ。つまり、『ザ・スクリプト』を期待した人には満足のいくものであり、進化を期待した人には不満が残るものなのだ。
この辺りは批評家たちが指摘しているところでもある。英音楽雑誌『Q』は星勘定では3/5の及第点としながらも、バンドとその音楽を「没個性の嫌いがある」と評している。ブログ『POPCULTUREMONSTER』は、「前作と違わぬ優れた出来ながら、成長が感じられるとは言えない」と評価は厳しめだ。
『Q』の"personality-free"評については解釈が分かれるところだろう。ここでは文脈から判断して「没個性」としたが、「当たり障りがない」辺りが適当なのかもしれない。実際、バンドメンバーの誠実そうな人柄は魅力的だが、悪く言えばエッジがない。音楽アーティストは音楽さえ優れていれば、相応に評価され、相応に長く続けられる世界でもあるが、仮にも「世界的なバンドになりたい」という野心を持っているのなら、没個性は歓迎されない。
同胞の世界的バンド「U2」にしても音楽が優れているのは当然のこと、メンバーの個性が立っているのも世界的なバンドになれた要因の一つだろう。ボノやジ・エッジ、アダム・クレイトン、ラリー・マレン・ジュニアなどと、メンバーの名前が出てくるのは何もファンだけではあるまい。
そうしたことも含めて考えると、今回の「iTunes festival London 2011」での「ザ・スクリプト」のライブから、次回作の方向性とバンドの成長とスケール感が改めて占えるのではないか、と楽しみにしている次第である。
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